会員及び会友の展覧会のご案内

16回特別展10人の女性作家による絹工芸染織展」

 期: 20071013日(土)~1125日(日)
9:00~17:00(最終入館16:30・水曜休館)
 場: 駒ヶ根シルクミュージアム (マップ
〒399-4321
長野県駒ヶ根市東伊那482番地
TEL 0265-82-8381 / FAX 0265-82-8380

入館料 一般(高校生以上)300・小中学生100
 (20名様以上の団体 一般200・小中学生50

 着物は1000年以上に渡って祖先から受け継がれてきた伝統的な民族衣装であります。ですから着物を着れば生き活きと輝きを増します。着物は日本人の伝統的な文化と言えるでしょう。おそらく日本人の遺伝子には着物を身に纏う遺伝子が組み込まれているかもしれません。特に絹の着物は、その風合と光沢に優れ、肌に優しく暖かく包み込んでくれます。この絹の不思議な魅力に惹かれて、自ら生糸を紡ぎ、布を織り、趣味と実益を兼ねた優れた技を有した方々が居られます。そんな10人の女性作家の作品を展示、紹介をします。

 絹の原料となる繭を作るカイコは3000種類以上の品種があり、それぞれ糸の性質に微妙な違いがあります.目的の布を得るために、特徴ある品種を選び、自ら飼育し繭を作らせ、生糸を紡ぐ、さらに色を求めて山野に入り花、樹皮などを採集してイメージにかなった色合いに糸を染めて織り上げた布や着物。絹糸を求めて、草木や染料を駆使して丹精こめて想いの色調に染織した布と着物。絹布に自己のイメージと夢を精緻に表現して染め上げた着物。また生糸を繰糸する際にでる屑糸(キピソ)を素材にして創造的なタペストリーや繭そのものの素材を生かしたクラフト作品などなど、多様で優れた作品です。

 優れた織り手、制作者が丹精込めて染織した作品のその輝き、その深みは観る人の心を揺るがすものがあります。「着物は日本人のこころ」とも言われています。伝統的な絹工芸文化の精緻な美しさをご家族で鑑賞下さい。


 

 

私 と 織 の 着 物

新匠工芸会々員  生島 潤子

自宅の着物の傍らにて 織り工房にて


 私は染織作家として主に新匠工芸会で独創性に重点をおいて紬の着物を制作しています。
 新匠工芸会は近代工芸の一柱であります陶磁の富本憲吉先生を中心として昭和22年に発足した工芸の在野団体です。「模様から模様を作らず」という富本精神を受け継ぎオリジナリティーを大切にしています。出品し始めた頃の私はそのことについてあまり意識しておらず、一点の作品の中にいくつもの技法や雰囲気を盛り込み、必然性のないデザインだけの美しさを求めていました。
 先生や先輩からの批評や助言に接し、この精神についで深く考えるようになって、縞や格子の中の経と緯の交わり自体に美しい情景を感じることが多くなりました。
 感じる情景を具体的な形で私の制作の柱にできないか迷った末、一枚の絵として着物という形の中で描く抽象画だと捉える考え方に辿り着いたのです。富本精神を体現するための自分なりの解釈だと思っているのですが、こう捉えることであれこれ迷っていた制作過程に必然が生まれ、納得して作業が進むようになりました。
 この考え方にそってすることは着物という用途をあまり意識せずに何を表現したいかという主題を明確にして全体像を描くことです。なかなか成果がでない上に浅いイメージでアイデアが日替わりで変化するので考えがまとまらず苦しい時間が続きます。しかしここで苦労を重ねることで独自の作品に辿り着ける気がしますし、これから始まる長い制作の日々の支えにもなります。
 全体像が決定しましたら次に染色ですが私は混色により微妙に違う色を何色も染めます。経と緯の交わりによって生まれる織でなければ出ない色をより複雑に求めたいからです。この度は三点の陳列ということになりましたのでそれぞれの作品についで、主に最初の過程である制作の趣意を綴ってみたいと思います。

 

1、「篝火のように」
 気がかりな事柄も多く、解決しなければならない問題もあり大変忙しい日常を過ごしていた時期の制作でしたので「自分自身への応援歌」を作品にしたいと思いました。
 あれこれ模索しているうちに暗闇を照らす強い光で燃える火にしようと思いました。
イメージしたのは薪能や武士の陣屋に燃える篝火でした。闇を舞う火花を中心に考
えましたので真っ赤に染めた糸をランダムに経絣に括り、その上に黒を染め汚れのない赤の火の粉を表しました。絣糸以外にも経糸に色味の違う黒を染め、赤と黒とでリズムの違う経縞を三種類作りました。勢いよく燃えはじける火、力を果たした火、消え入る直前のくすぶる火。心に映る赤の色が様々に変化する様子を10種類の赤の緯糸で織分けました。
 表現は強いのですが篝火のように闇を照らして明るさの中で突破口を見出し希望へつながる穏やかな祈りを込めました。

 

2、「湖畔の朝」
 モチーフは白樺の木。グレーやベージュや白の幹は他の樹木にはない凛とした雰囲気が感じられて私は大好きです。白樺の風景をあれこれ想像していると木々ばかりでなく高原の湖からかかってくる朝靄や光や風や空が浮かんできました。着物全体の縞と色彩で白樺の林をそして着物の左側にさやさやと美しい葉の重なりや差し込む光や空のディテールを織り合せその情景を表現しました。

 

3、「秋天」
 夫が北京に駐在していたときに偶然「北京秋天」という言葉を知りました。
「北京の秋の空は本当に美しいので、北京に来るなら秋にいらっしゃい」という意味らしいのです。秋天という言葉は聴きなれない響きで斬新な印象を持ち、いつか作品にしたいと思っていました。夏から秋に移っていく空の眺め、入道雲から鱗雲ヘー気に移っていく様子が感動的で、自分がイメージしていた秋天という言葉とぴったり重なりました。空と雲の二つの要素をどのようなスタイルで着物にするか迷った末、上前と下前に色分けすると片見変りの構図で上前に空を、下前に鱗雲を描くことにしました。空を格子で雲を細かい縞で織り、違った雰囲気の二つの要素を抽象的に表現しました。
 最後にいずれの着物も様々心に映る事柄を自分なりに自分らしく描くことに最も力を注いでいます。しかしながら着物は女性の着るものですから品よく身に纏え、また纏っている女性が美しくなければ意味がありません。最終的には着るものであるということを何よりも優先して制作したいと思っています。今後も心を込めて自分らしい織物を心がけていきたいと思います。


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